015「ふざけたメニューばかりの店」

会社員あるある


パリ:ナオさんの新刊『「それから」の大阪』を読ませてもらったんですけど、すごく良かったです。

ナオ:ありがとうございます!

パリ:いわゆるごく普通の、市井の人に話をたくさん聞いてるじゃないですか。屋台や飲み屋のご主人とか。

ナオ:そうですね。取材する先は、けっこうその時々の運まかせで。

パリ:それなのに、どの人の言葉もびっくりするくらい響くんですよね。ジャズが好きでトランペットを始めて、ちんどん屋の存在を知って「魂が震えるのはこっちだ!」と、ちんどん屋の会社まで立ち上げてしまった方の話とか、ずっと聞いてたい。

ナオ:「ちんどん通信社」の林幸治郎さんのお話、すごくおもしろかったです。お話を聞かせてくれた人たちのおかげでできた本でした。別に話題が大阪に関係してなくてもいいというか、どんな人でも、大阪で暮らしてる人に聞けば、最終的には必ず、これまでの大阪とか今の大阪をめぐる話になるなと思いました! 岸政彦さんが監修された『東京の生活史』っていう、ものすごい厚みのある本に参加させてもらったんです。それがすごく勉強になってこういうスタイルになったところもあります。

パリ:なるほど。でも確かに、自分なら「さんたつweb」というサイトで、地元石神井の居酒屋の店主に話を聞くシリーズっていうのをやらせてもらってますけど、やっぱり、全員にストーリーがあって、最終的に石神井らしい話に落ちくつ感じはありました。

ナオ:ね。その場所のことを少しずつ知っていけるような感じで、でも終わりもないんですけどね。

パリ:もとはなんの縁もなくて、そこに流れついてやってきたような人でも、住んでるとだんだんその街に対する想いみたいなものが生まれてくるんでしょうね。空気にもなじんでいくというか。「こばやし」の奥さんがそうだったじゃないですか。

ナオ:そうですね! 西九条にあった立ち飲み屋さんで、お店を切り盛りされていた静江さんという人。もともと新宿の「紀伊国屋書店」に勤めていたんだそうです。

パリ:それがいつしか、大阪の酒飲みたちに愛されまくるようになるという人生。

ナオ:そうそう。梅田の紀伊国屋に転属になり、それでご主人と出会って立ち飲み屋をやることになって。

パリ:その言葉のひとつひとつが沁みるんだよな。しかし不思議だな〜。30年後、自分がブラジルで漁師をやっているようなこともあるのかも。

ナオ:ありえなくはないですよ。自分で言えば、大阪で生活するようになるとは、10年前でも思ってなかった。

パリ:本当だ! それこそ、僕らが出会ってよく飲むようになった10年前、お互いにまだサラリーマンで、鬱屈としてましたもんね。今とは生活がまるで違った。

ナオ:そうですねー!

パリ:「今の会社にい続けてもお先真っ暗なのはわかりきってるんだけど、じゃあどうすれば……」みたいな。まぁ、今だってお先が明るいわけじゃないんですけどね。でも、へらへらとは過ごせてる。

ナオ:はは。でも、会社員を経験してよかったなと思う部分もありますけどね。よく覚えてるのが、25日が給料日だっていう人が多いじゃないですか。

パリ:はい。そうでした。

ナオ:で、給料日前はあまり使えるお金がなくなって、みんなが給料日を心待ちにしているような感じで、それはどの会社にいるとか関係なく。

パリ:確かにそうだった! バイオリズムが一緒なんすよね。

ナオ:そういう会社員ならではの「あるある」があって、Twitterを開くと「やっと明日給料日だ!」とか、そういうツイートが並んだりして。たまに25日が週末にかぶって、23日の金曜に給料が前倒しで入金されるとか、あったじゃないですか。「やった! 奇跡!」みたいな。

パリ:あったあった! で、その夜に音楽イベントとか行くとそのムードが共有されてたりして、いつもよりテンション高めに「乾杯しましょう〜!」って。

ナオ:そうそう。会社の飲み会の面倒さとか、会議が眠いとか、ああいう「あるある」が共有できてた感じが懐かしいです。

パリ:うん。ただし間違いなく、嫌なことのほうが多かったですけどね!

ナオ:毎週月曜に朝礼があって、一週間の進捗を発表するんですよ。私はそれがめちゃ苦手だった。

パリ:嫌だぁ〜。

ナオ:そもそもサボってばかりいるから、進捗がないわけ。

パリ:元気な声で「進捗、ありません!」は通用しないですもんね。

ナオ:そうそう。だから、なんか進捗を作り出さないといけない。それこそもう、てきとうな数字を作るしかない。なんか「メール返信率が前週比で12%アップしました!」みたいな。

パリ:そもそも返信率が100%じゃないのが問題ですもんね。

ナオ:はは。そんなんだから会社を辞めたんですが……。ダメ社員だったなー。「オフィスグリコ」っていう、お菓子が入った箱が休憩室にあって、100円入れたらプリッツとかポッキーとか、そんなのを買えるシステムがあって。

パリ:あったあった。

ナオ:仕事中は終始眠いからお菓子食いまくって、食べ終わると眠くなるからまた次の菓子をっていう。

パリ:家にいるのと変わらん。

ナオ:家より効率悪いかもしれない。だって家だと寝られるでしょう。原稿作業がはかどらないとき、ガツンと寝るんです。

パリ:それめっちゃやります。

ナオ:ね。かえってすっきりしてがんばれる。あのシステム、会社でも導入して欲しかったな。「ちょっと寝ます!」って当たり前に言えるようなさ。

パリ:本当ですね。


ビールとトマトジュースをがっちゃんこ


パリ:あの、ビジネス用語ってあるじゃないですか。今ふと、あれを酒の話に応用できないかな? とか思いました。

ナオ:あ、なんかちょうどこの前、そんなツイートを見かけたんですよ! 新入社員の方が多い季節だからかな。「がっちゃんこする」とか。

パリ:はは。なにそれ!

ナオ:言いませんでした?

パリ:聞いたことないっす。

ナオ:「Aの資料とBの資料のいいところをがっちゃんこして」みたいな。

パリ:はは。そんな用語あるの?

ナオ:あったんです。「うまく間をとって融合させる」みたいな?

パリ:なんかほら、日本語で言えばいいところをわざわざかっこいいビジネス英語で言うほうを想像してました。「なる早で」を「ASAPで」とか。でもそっちのほうに興味が出てきた。

ナオ:はは。あ、見かけたツイートの内容、これでした。


新社会人に贈る、一部の職場でしか使われていないけど一応覚えないといけない謎の用語集


・行って来い

・えいや

・がっちゃんこ

・全員野球

・一丁目一番地

・えんぴつ舐め舐め

・仁義切る

・ダマでやる

・握る

・ポンチ絵

・正直ベース

・ペライチ

・交通整理

・決めの問題

・ダメ確

・ガラガラポン


パリ:わはは。おもしろいなこれ。

ナオ:全部はわからないけど。「あったなー!」というのがいくつかあって。こういうのってもともとは、はっきり言いすぎるとちょっと角が立つようなことをごまかしていうための言葉だったんですかねー。

パリ:うんうん。酒の世界でたとえるならば、がっちゃんこは「レッドアイ」とかですかね。「ビールとトマトジュースをがっちゃんこ」。

ナオ:ははは。いいがっちゃんこですね。または「おれ、がっつりフライの盛り合わせいきたい気分なんですよね」っていう人がいて、「えーちょっと重くない? おれはハムでいいわ」っていう人もいて、「じゃあ、がっちゃんこしてハムカツで」みたいな?

パリ:それ、どっちも嬉しくないのでは。

ナオ:はは。

パリ:あとさ、ちょうど昨日、そばと酒の店に入って、軽いつまみを頼んでビールと日本酒1杯ずつ飲んだら、もうそばが食えなくなっちゃんたんですよ。あれは我ながら、仁義切ってなかったな。

ナオ:そこは仁義切らないといけないっすね。我々もう、胃袋がペライチだから。

パリ:はは! 

ナオ:私もその場にいれば全員野球でいけたんですけどね。

パリ:全員野球ってそんな「一杯のかけそば」みたいな言葉なんでしたっけ?

ナオ:ははは。

パリ:つーか知らない言葉けっこうあるな。全員野球は、一致団結みたいな感じなんですかね。

ナオ:なのかなー! 誰かに任せず、みんな強気で当たって行くぞ! みたいな?

パリ:えんぴつ舐め舐めって、気持ち悪いすね。これはなんだろう。「書くことの中身が決まっておらず、考え考えしながら文章を書いていくことの表現」だって。

ナオ:ああー、そういうことか。あんまり聞いたことないけどなー。

パリ:居酒屋でいう「お通し舐め舐め」ってことですね。壁のメニューを睨みながら。気色悪いやつだな。

ナオ:はは。その後、日本酒も舐めるように飲むし、みそも舐めるし。

パリ:ははは。それはもう純粋に舐めてるだけじゃないですか。

ナオ:でも酒場用語ってのも、たとえばほら「ナカ」と「ソト」とか。ああいうのも最初はよくわからなかったです。

パリ:はいはい。

ナオ:酒好き上司が、「この書類のソトもらえる?」とか。

パリ:意味不明。「この企画、もうちょっとナカ濃いめにできない?」

ナオ:はは。それはいい! 意味わかりますもんね。この前、瓶ビールの大瓶を「633」って言うって聞きました。

パリ:初めて聞いた!

ナオ:633ml入りだから「ロクサンサン」って注文したりすると。

パリ:かっこいいですね。そういうのなんか、もっとあった気がするな〜。

ナオ:ほら、前に話したかもしれないけど、大阪の角打ちに行ったら「サンカク」って注文してる人がいて。なにかと思ったら三角形の6Pチーズが出てきて。あれがありなら「ピンク棒ちょうだい」で魚肉ソーセージとかもいけますよね。

パリ:はは。ほんのりと下ネタっぽい。

ナオ:確かに。ちょっと嫌か。

パリ:じゃあちょっと、僕もひとつ考えてみるので、当ててみてもらえませんか!? え〜と……あれ、急に思いつかないな。……だめだ。緊張しちゃって。

ナオ:はは。謎の緊張!

パリ:形から入ればいいのかな「いびつな球体」。

ナオ:つまり、私が居酒屋の大将だとしてそう注文されたと。「あいよ! いびつな球体いっちょうね!」ってことですよね。わかった、ゆで玉子だ。

パリ: あ、すごい! 一発だ。じゃあね、「三つ子ちゃん」は?

ナオ:「三つ子ちゃんね! あいよ! うずら串」

パリ:はは。「ちょっと大将〜、枝豆頼んだはずだけど?」

ナオ:ははは。玉子ばっかり食って変だなと思ったんだよな。

パリ:よけいなトラブルのもとだな。

ナオ:けどおもしろい。じゃあ、「大将! 雪ちょうだい!雪!」。

パリ:「あいよ! しらすおろし」

ナオ:「そうそう! これこれ!」

パリ:よし!

ナオ:「大将! 消しゴムちょうだい!」

パリ:「あ、あいよ! え〜と……ゆでいか」

ナオ:はは。「大将ー! 冷奴が食いたかったんだけど!」

パリ:ちっ。「わかったわかった。あいよっ! 消しゴム」。

ナオ:本物のね。

パリ:「それ食って帰ってくれ!」

ナオ:「醤油の味が長持ちするなー」って。

パリ:ダメだこの客。


どんなものでも煮込めば煮込み


ナオ:でもほんと、そういう謎のメニューってありますよね。

パリ:その店にしかないやつとかね。

ナオ:私の家の近所の「但馬屋」だったら「イヤリング」っていうメニューがあって、正体は、耳つながりでミミガー。

パリ:うんうん。あと関西ではゆで玉子のことを「にぬき」って言いますよね。

ナオ:ね。全然わからない言葉。

パリ:由来は「煮抜くから」っていう。調理法のほうを料理名にするカルチャーもあるよなー。それこそ「煮込み」とか。

ナオ:あー、煮込みもそうか!

パリ:本来、どんなものが煮込まれて出てきても文句言えないですよ。

ナオ:そうですよね。ポトフでもいいし。

パリ:はは。でもさ、ポトフが出てきたら「あの店の煮込み、おもしろいんだよ」って、きっと酒好きの間で話題になったりしますよね。

ナオ:「あいよ! 煮込みお待ち!(と言いながら、一枚板のカウンターにポトフの入った小鉢を置く)」と。渋い居酒屋であればあるほど面白いですよ。

パリ:最高。「あいよ! あつあげ!」

ナオ:「ん? これは……」

「あっつあつの揚げ餃子だよ!」

ナオ:ははは。大将わざとやってんな!

パリ:「ばれたか」って。

ナオ:ふざけたメニューばかりの店。「うちは握りもできるよ! あいよ! 豆腐を握ったものだよ!」

パリ:はは! きったねぇ。「茶碗蒸しね! はい、茶碗を蒸したものだよ!」

ナオ:純粋なホット茶碗。「あたたかさを感じてね!」。

パリ:「温まり終えたらカウンターの上にあげといてね!」って。日本のどこかにないかな、そんな店。


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