019「怒られを逆手に」

めったにない経験


パリ:こないだありがたいことに、とある同世代の男性の作家さんが僕と飲みたいと言ってくれていると共通の知り合いである編集者さんから連絡もらって、それはぜひぜひ! と、3人で飲みに行ったんですよ。

ナオ:ほほう。いいですね。

パリ:飲んだのは、その方のホームグラウンドみたいな街で。

ナオ:作家さんがその街に詳しいわけですね。

パリ:そう。僕らはもう、ただ案内してもらうみたいな感じ。それで、その方がちょっと早めに街に着いて、「老舗の人気酒場の小上がり席が運良く空いていたので、そこで待ってます!」と連絡もらって、向かったんです。コの字カウンターと、小上がりが3つみたいな、ものすごく渋い店。みんな穏やかに飲んでる名店なんですね。そこで、1時間半くらい3人で飲んだかな。おでんがひとつひとつ、驚くほど美味しかったり。

ナオ:なるほど、いい店なんですね。

パリ:最高でした。入れたことが超ラッキーくらいの名店。ただ、なんとなく噂で聞いたことがあったんですが、そこ、取材的なものは一切NGな店らしくて、ちょっと緊張感もあるんです。

ナオ:ビシッとした雰囲気の。

パリ:はい。だけど飲んでたらつい楽しくなってしまって、ちょっとこう、我々のテーブルだけわいわいした感じになってしまってたらしいんですね。大声を出すとかじゃないけど。

ナオ:複数人だとそうなりがちですよね。

パリ:そうしたらそこの店主さんがですね、2代目とかなのかな? おじいさんとかじゃない、ぴしっとしたかっこいい店主さんなんですけど、僕たちの席までやってきて「すいません、もう少しだけお静かにお願いします」って、怒られちゃったんです。軽く。

ナオ:あら、そういうこともあるか。まわりが静かだと特にね。

パリ:申し訳なさすぎました。ただそこからが予想外の展開で、その作家さんが、それはそれとして、店主さんと話せるなんてめったにないチャンス! と「自分たちはこういう者で、こちらの方は、有名なライターのパリッコさんという方なんですよ」って。

ナオ:はは。すごい! 怒られを逆手にとったというか。

パリ:そうしたら、ラズウェル細木先生パワーですよ。店主の方が「あ、『酒のほそ道』で見たことあります」って。

ナオ:わー! 知っていてくれたんだ。

パリ:ただ、怒られた流れだから、もう恥ずかしくて恥ずかしくて。

ナオ:ははは。

パリ:ラズ先生にもなんか悪いし。「すいません、こんな酒飲みで! もう帰りますから!」っていう。

ナオ:おもしろい。かなり複雑な状況ですよね。

パリ:そうそう。しかも、「えー! パリッコさんなんですか!」とかでもないし。好きな作品に出てるのを見たことあるだけっていう。と、怒られたタイミングで、同時に正体がばれるという経験をしたという話でした。

ナオ:ははは。


異常ライター


ナオ:でもその方法、実は本当にいいかもしれない。

パリ:そうそう。だってその作家さん、最終的に店主さんに「取材協力とかはできないけど、どこにでも好きに記事を書いてください」って言ってもらってたし。

ナオ:その方が有能なのは間違いない。

パリ:ただ、自分にできるか? そのパターン。勇気出ないなぁ……。

ナオ:あえてマイナスからのスタート。昔の恋愛漫画とかであったパターンですよね。

パリ:ははは。

ナオ:「あんなやつ最低! あれ……でも、かっこいいかも」。最初の印象が悪いからこそ、逆に。

パリ:不良が雨のなかで野良猫を拾って。

ナオ:そうそう。ずるいやつね。最初からいい人よりいい人に見える。

パリ:それを意図的にやるのはかなりハードルが高いな〜。

ナオ:現実ではなかなか難しいかもしれないけど、酒漫画を描くとしたらそういう展開を作りたいですね 。

パリ:確かにドラマチック。

ナオ:「この野郎! いい根性してやがる!」

パリ:「おめぇだけ特別だ! 好きに書け!」

ナオ:周りから「え! あの店から許可が!? どうやったの!?」と驚かれるような。

パリ:「実はな……」って、偉そうに。

ナオ:はは。なに食べても、「フゥー!!!!! うまー!!!!! フゥーッ!」って叫びまくって。

パリ:とにかくうるさい。

ナオ:「このおでんの大根!!!!! フゥーーー!」

パリ:「お客さん、うまいのはわかったけど、少し声おさえてくれねぇかな?」「はい! 取材させてください!」

ナオ:返す刀でね。もう、謝りもせずにいきなり。

パリ:「え、わ、わかった、いいよ」「フゥーーー!」

ナオ:ははは。うるせー!

パリ:異常ライター。ただし、文体はいたって普通。

ナオ:あくまでね。

パリ:「おでんフゥーーー!」とは書かない

ナオ:「なんと滋味深いだしであろう」って。

パリ:それも別の意味でうるさいよ。


飲ませてよ、たまにはコーラを


ナオ:もうだいぶご無沙汰してしまっているけど、Taiko Super Kicksというバンドの伊藤暁里さんという方と、何度か飲んだことがあって。

パリ:伊藤さん、僕も飲んだことあります!

ナオ:あの伊藤さんが「宇ち多゛」の大将と仲良しだっていう話を聞かせてくれたことがあって。

パリ:へー!

ナオ:「どうやって仲良くなるんだよ!」と思いますよね。

パリ:はは。本当。

ナオ:宇ち多゛って、それこそビシッとした、お店の方に話しかけることもできないような緊張感じゃないですか。

パリ:仲良くなる道筋がゼロなんだよな。

ナオ:しかも伊藤さんの話を聞くに、そんじょそこらの仲良しじゃない。

パリ:はは。もう、旅行行くレベルとか。

ナオ:それくらいの話だった気がする。どんなきっかけがあったとか、いろいろ聞いた気がするなー! 伊藤さんの人柄がもちろん大きいんでしょうけど。

パリ:つーか飲み屋の人っていう存在感、おもしろいですよね。芸能人とも違うけど、あこがれがあって。飲み屋のマスターと仲良くなって飲みに行くっていう、特別イベント感。

ナオ:わかります。自分はそんな経験ないですが、居酒屋の店主ってこっちにとったらもう、アーティストでしょう。

パリ:です。作品は、ちくわの磯辺揚げであったり。

ナオ:そうそう。たまに街で見るとびっくりするんですよ「芸能人いた!」って感じで

パリ:はは。わかる。えー! 実在したんだ! って、飲み屋にはいつもいるのに。

ナオ:ね! 別の場所で見ると驚く。「福山雅治がコンビニにいた!」みたいなさ。

パリ:ほぼそのくらいの感覚。

ナオ:「普通の生活してるんだ!」って。

パリ:なんだと思ってるんだっていう。

ナオ:ね。めちゃくちゃ勝手な話ですけどね。そうだ、大阪の京橋に「とよ」っていう名物店があるんです。めっちゃテンションの高い店主がバーナーでマグロを豪快に炙って、それがショーみたいにもなっている店なんですが、ある日の夕方に、その店からそんなに遠くないスーパーに行ったらその大将が買いものしていて「え! スーパーのもの、食べるんだ!?」っていう

パリ:はは。わかるな〜!

ナオ:偏見でね、もう。「まぐろのホホ肉食べてないんだ!」「あんなに美味しいものがあるのに!」って。

パリ:ほら、SNSが発達してめっちゃ美味しい料理出す居酒屋の店主が、ペヤング食べてるのを見てしまうみたいな。

ナオ:素の部分を思いがけず見てしまって。

パリ:「そんなもの食べて、体大丈夫!?」

ナオ:その人にしたら当たり前の毎日なのにね。

パリ:本当だよ。

ナオ:「ラーメン屋さんなのにカレー食べてる!」みたいな。

パリ:「裏切られた!」

ナオ:「この前見ちゃったんだよ……大将がカレー食べてるとこ……」

パリ:そう考えると飲食業、難しいわ。

ナオ:でもそれでいうとパリッコさんなんか「この前見ちゃったんだよ……パリッコさん、コーラ飲んでたよ……」

パリ:ははは。

ナオ:「あれは冷めたわ」って。

パリ:飲ませてよ、たまにはコーラを。


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