001「銭湯が好きなのは本当」
「ワンプッシュ定量ディスペンサー 一押(いちおし)くん」
パリ:コロナに突入してからもう、2、3周回って、最近なんだかよくわからなくなってきてます。酒の飲みかた。
ナオ:そうですね。この1年半ぐらい、安定した飲みかたをキープできてる人はすごい精神力な気がしますよ。
パリ:ですねぇ。緊急事態宣言が明けて、やった〜! 久しぶりに外で飲めるぞ! ってなった3週間後に、宣言突入とか。調子狂いすぎる。
ナオ:ね。そして今後もしばらくそんな感じで続きそうですもんね。
パリ:とはいえ、毎日飲んではいるんですけどね。
ナオ:家では飲めますね。いや、飲みすぎる。
パリ:飲みすぎる。あ、最近あれ買いました。「ワンプッシュ定量ディスペンサー 一押(いちおし)くん」。
パリ:約2000円くらいと、まぁまぁするんだけど。
ナオ:あー! 大きなペットボトルにくっつけてプシュッと押すとお酒が出るっていう。
パリ:ですです! 居酒屋にあるやつ。
ナオ:「大量注文も一気に完成!」ってキャッチフレーズが!
パリ:はは。
ナオ:それを家で!?
パリ:そうそう。もはや提供する側気分で。
ナオ:大量注文してるのは……俺ー!
パリ:レビューに「ふだんは酔っぱらってくると酒を注ぐ量が雑になってくるけど、これだと飲みすぎ防止になる」みたいなことが書いてあるんですよ。
ナオ:なるほどね。出るのが定量だから。
パリ:ただ、これを買ったことにより、せっかくだからと4Lのペットボトル焼酎買っちゃって。本当に飲みすぎ防止になってるのだろうか……。
ナオ:ははは。店員も客も両方自分だから、2プッシュして欲しいという要望があれば、してしまう。
パリ:そうそう!
ナオ:「あいよーっ!」って気前よくね。
パリ:「この店、濃いね〜」
ナオ:「あざーっす!」
パリ:だんだんいい気分になってきてサービスしすぎちゃったり。「4プッシュ入れといたよ」って。
ナオ:店員が自分で飲んでるんだもんな。
パリ:それはそれとして、これいいすよ。プシューって出すとき毎回楽しい。
ナオ:うん。お店気分で楽しそう。
パリ:あとなんか、完全に気のせいだと思うんですが、いつもより美味しい気がするんです。普通のチューハイが。
ナオ:そうなんですね。
パリ:もしかしたらですが、この「一押しくん」を通り抜けるとき、まずいったん、定量が上のフタの部分に引き上げられるんです。そのとき、プシューって、空気と混ざりながら吸い上げられてるのが見えて、それがもしかして、味に影響してる?
ナオ:そういうのもあるかもしれないですね! ビールやチューハイでも、缶からグラスに注ぐと変わったりしますもんね。
パリ:あ! 最近「ワインエアレーター」っていう、ボトルワインに空気を混ぜながら注げるグッズも買ったんですよ。味がぜんぜん変わるっつって。それと同じ原理なのかも!?
ナオ:なるほど。空気に触れたほうがね。
パリ:まぁ、レビューを見ると、「上部にワンショット分常に溜まっている酒が、一晩も置いておくと酸化して非常に不味くなる。グラスに注いで一晩放置したのと同じ状態」って書いてあったりもするんだけど。
ナオ:ははは。そうか。
パリ:おれがうまいと思ってるんだからほっといて!
ナオ:押したあと、常に次のぶんがストックされるシステムなんですね。
パリ:そうそう。
ナオ:それを飲まないと酸化してしまう! っていう無限の恐怖。
パリ:酸化を防ぐには飲みきるしかない! プシュ! ズズズ……「あ〜もう、また!」。バカですよ。
ナオ:はは。これはちなみに台所に置いてるんですか?
パリ:そうです。とりあえず家族には何も言われてないけど、ちょっとうしろめたい。
ナオ:よかった。部屋の机の上に置いておいたら仕事中飲みすぎてしまいそうだ。居酒屋で仕事してるような。
パリ:「仕事中飲んじゃいそう」じゃなくて「仕事中に飲みすぎちゃいそう」ってもう、飲むのは前提。
ナオ:はは。本当だ。失礼しました! だいぶ社会のモラルから遠ざかってしまっています。
分が悪いものを愛するもの同士だけに生まれる感情
パリ:でもまー、こう天気がいいとランチビールなんかもう、不可避に近いですね。
ナオ:そうそう。なにか仕事の合間に酒を飲むようなとき、いつも「海外の人はこんな感じだろ」ってイメージしながら飲んでるんですが、あれ本当か!? 「イタリアではお昼から飲む」みたいなイメージ。
パリ:それね!「ドイツ人にとってビールは水みたいなもんだから」って、百歩譲ってそうだとしても、お前日本人だろっていう。
ナオ:たしかに、生活のなかの他の部分に海外要素があるわけではないのに。あと、外国映画を見てるとズボンの尻ポケットに入るような銀の水筒にどうやらウイスキー入れてるらしいのを登場人物がことあるごとに飲んだりしている。
パリ:ありますね。スキットル。
ナオ:そうそう! 戦争もので、「よし、行くぞ」みたいなタイミングでスキットルの酒をグッと飲んだりして。それを見たときに「うまそう」って思ってしまう自分がいて。「お前、状況わかってんのか!?」と我ながら思う。
パリ:はいはい。わかります。泣けるシーンなのに、勝手に喉がゴクっと。
ナオ:不謹慎とはこのことっていう。
パリ:生理現象だからしょうがないっす。あと、アメリカ映画で、紙袋に酒入れて飲んでるシーンがよくあるじゃないですか。あれ、法律で外で飲めないからと聞いたことあるんですが、どう見ても酒だろ! って思います。
ナオ:ありますね。そもそも公衆の面前で飲んでいいようなものなら紙袋に入れないですもんね。
パリ:大義名分みたいな感じなのかな。おまわりさんも「隠してるから見逃してやるか」とか。
ナオ:この前、外で、ほら、今はもうかなりお酒を飲み歩きづらいでしょう? それで、パリッコさんなんかも長く愛用している「缶クージー」ね。あれを自分もリュックに入れておいて、なにかあったら使っているのですが、ちょっとだけ缶の上の部分がはみ出すじゃないですか。
ナオ:あそこから「寶」の字がのぞいている。
パリ:そうそう! ちょっとはみ出るんだよな〜。
ナオ:私がその状態で歩いていたら、クージーの上からまったく同じ字がはみ出てる人がいて目が合ったの。思わず乾杯しそうになりましたよ。もし乾杯したとしても、クージー同志だから「むん」みたいな音でしょうけどね。
パリ:わはは。その乾杯音こそがコロナを象徴する音ですよ。
ナオ:同じ酒を飲んでる同士っていうのもあったし、なんかお互い、酒が好きな人として「今大変っすね……」っていうのもあったし。
パリ:新しい感情ですよね。
ナオ:タバコ好きな人同士にも近い感情がありそうですね。
パリ:確かに。
ナオ:かつてタバコを吸っていたころ、ライターが見当たらないと見知らぬ人に気軽に、「火、貸してもらえます?」って言ってて。あれに対して自分も他人もみんな寛容だった。「はいよ!」っていう。
パリ:分が悪いものを愛するもの同士、独特の。
ナオ:うしろめたさも共有していたりね。それってあれですよね。たとえば、同じ酒場に集まっている人でも、同じ店が好きっていう時点で共感する部分がある。
パリ:うんうん。
ナオ:カウンターの端と端で離れてても、なんか「わかるよ」っていう。あの感じも少し幸せなんですよね。
「嫌いなのに来たの?」
パリ:あ、ただ、僕は銭湯が好きでよく行くんですよ。だけど、銭湯の浴室内って、なんか周りのじいさんたちと、ちょっとだけ「敵同士」みたいな感覚が生まれません? 自分だけかな。「水しぶき飛ばしてこねぇだろうな」みたいな。
ナオ:ははは。いや、わかりますよ。それって、少ない場所を取りあうと発生する気持ちですよね。広い浴場に3人だったら「わかるよ」だけど、30人いたら「ちょっと!」ってなる。
パリ:そうかー。酒場の例とはまた別か。いやでも、ぎゅうぎゅうの酒場はそんなに嫌じゃないんだよな。
ナオ:確かに……。神戸の水道筋にある「灘温泉」という、絶対いつかパリッコさんをお連れしたい素晴らしい銭湯があるんですが、源泉が炭酸泉で、なんともちょうどいい温度でシュワシュワして最高なんですね。しかし最高ゆえに競争率が激しいわけ。
パリ:なるほど。
ナオ:ひとり出ると、その細いすき間にひとり入ってみたいな。もうなんだろう。ふな寿司が並んでるみたいになってるの。沖縄いくと売ってる瓶詰の小魚とか。
パリ:はは。スクガラスだ。
ナオ:人がぎゅうぎゅうなんですよ。あそこでは「わかるよ! 乾杯!」の気持ちは起こりにくい。同じものを好きな同士であることには変わりないんですけどね。
パリ:あ! 今気づいたんですが、もうひとつ重要な要素がありました。銭湯にいるやつ、全員裸!
ナオ:ははは。忘れてた。
パリ:絶対に間違って肌と肌がふれあったりしたくない。だから風呂を出るともう敵じゃなくなって、風呂あがりのじいさんが番台の店主と話してるのをほのぼの眺めてて、まるで浴室で一緒にいた人とは別人みたいな感覚になるのかも。
ナオ:裸を愛せるようになったらいいのか。でも基本、人間誰しも同じ素材でできてますからね。
パリ:素材は同じでも、濡れた老人と、かわいた服を着てる老人は、やっぱり違うな。愛せる度合いが。
ナオ:そうですねー! ちょっと慣れがいるわ。でもサウナなんか混んでるでしょう。最近特に人気で、サウナでは結構な確率で肌と肌が触れあいますよ。そもそももう、みんな汗かいて同じ場所にいるっていう。
パリ:そうそう!
ナオ:あれはもう、どこかで気持ちを切り替えるしかないですよね。
パリ:で、みんなマナーがいいんですよね。サウナーというような人たちは。それでもニコニコしてる。
ナオ:うんうん。
パリ:だから最近思ったんですが僕、サウナ向いてねぇやって。ととのおうとがんばった時期もあったんですが、すごい時間かかるのがどうももどかしくて。もう、早く飲みたくなっちゃう。
ナオ:あー、私もカラスの行水派で、お風呂は好きなんですがすぐあがりたくなってしまいます。
パリ:ね。もちろんサウナ好きの方は否定しないし、自分もたまにはじっくり入りたいとも思うんですが。本当すぐあがりたくなっちゃって。あれ、なんですかね。銭湯来てる他の誰よりも早い。
ナオ:はは。
パリ:「何しにきたの?」っていう。「お湯、嫌いなの?」
ナオ:「嫌いなのに来たの?」
パリ:「今日もまた?」
ナオ:嫌いさを確かめに来たみたいなね。「あーやっぱ嫌いだわ」って。
パリ:「だめだ〜!」とか言って。
ナオ:「〇月〇日 この銭湯に来るのは今日で1000回目である。やはり嫌いであった」と日記に。
パリ:1000回も確認必要?
ナオ:謎の行為です。だから、一瞬入るのが好きということですね。我々は。
パリ:入った瞬間、最高ですよね。
ナオ:そうそう。美味しいもののひと口めみたいな。
パリ:「あ〜……とか言って10秒くらいは最高。で、30秒くらいでもうつらい。
ナオ:すぐ満腹に。ちなみにさっきの灘温泉の源泉は、25度とかだったかな。
パリ:低い!
ナオ:そうそう。ぬるいんです。だからずっと入っていられるはずなんです。
パリ:わかる。ぬるま湯ならいくらでも入ってられる。
ナオ:って言ってもまあ、すぐ出るけど!
パリ:ははは。やっぱり嫌いとしか。っていうか銭湯って、最高に気持ちいいのは風呂あがりでしょ。
ナオ:そうですね。だから早く外に出て飲みたいっていうのが勝ってしまう。
パリ:はは、だめだこりゃ。多方面の本気のファンからお叱りを受けそうな。
ナオ:すみません! 銭湯が好きなのは間違いないはずなんですが。
パリ:それで「水しぶき飛ばすなよ〜」じゃねえだろと。
ナオ:ははは。
パリ:いや、すべての銭湯とサウナは最高です! ただ、すぐ飲みたくなっちゃって!
ナオ:灘温泉も最高ですが、いつか淡路島の扇湯にもお連れしたいです。そこは有志の方が苦労して銭湯を修繕して、なんと銭湯のすぐ横に立ち飲みスペースができたんです!
パリ:くぅ〜!
ナオ:土日だけ開いてるんですが、究極ですよねー。もうそれこそ、飲んでるだけでけっきょくお風呂には入らないっていう可能性もある
パリ:はは。銭湯の空気を吸いながら飲めるだけで。
ナオ:横にあると思いながら飲むだけでね。
パリ:つーかずいぶん前に、そんなことやってましたよね? ナオさん。ふたりで酒を片手に街を散歩してて、「ここの銭湯からもれてくる匂いで飲めますよ!」って。
ナオ:銭湯の近くっていい匂いがするんですよね。石鹸みたいな。それを吸いながら飲む。
パリ:あとコインランドリー。
ナオ:そうそう。あの匂い
パリ:飲めるな〜。あ、探したら写真あった。
ナオ:はは。
パリ:2016年の年明けみたいです。
ナオ:この室外機のあたりにダクトがあってね。
パリ:むしろ感動するな、この進歩のなさ。
ナオ:たしかに。マスクしてないだけみたいな。
パリ: 今はここに、マスクとクージーが加わっただけ。
ナオ:口と酒を隠しただけ。

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