013「電話力」
取材交渉電話が苦手すぎて
パリ:ライターの仕事の苦労もいろいろあるけど、僕らが共通していちばん苦手なのって、たぶん取材交渉ですよね。
ナオ:本当にそう。たとえば居酒屋さんに電話して、主旨を説明して取材させてもらうみたいな。
パリ:百歩譲って、まず一度飲みに行って、お会計の時に「実は私、こういう仕事をしていて……」って話すことはできるんですよ。というか、まずは自腹で行って、お店の良さもきちんと自分で確認してという、それが筋だと思うし。ただ、どうしてもそれができないことがあって。編集者さんに指定された店に近日中に取材にいかなきゃいけないみたいな。
ナオ:ありますねー。
パリ:で、いきなり電話するしかないんだけど、まじで気が重いんですよね。あれなんだろう。事前に一杯入れないと無理じゃないですか?
ナオ:ははは。とんでもない重圧を感じますよね。で、大前提として、そういう電話が先方にとって迷惑である可能性が高いのがわかっている。忙しい仕事中に電話がきたら「取材? はあ?」って思うのが普通ですよね。
パリ:そうですよ。もちろん「宣伝してくれるなら!」って喜んでくれる人もいるけど。とにかくそういう心配をしちゃうんですよね。何時ごろなら迷惑じゃないのか? とか。
ナオ:そうそう! 営業開始時間を調べて、始まる30分ほど前に電話してました。
パリ:でもさ、その時間がいちばん仕込みで忙しいかもしれないじゃないですか。じゃあ2時間前ならいいのかというと、ギリギリ寝てるかも? とか。
ナオ:まだ店に来てないかもしれないし。
パリ:ね。で、逆張りで23時とかに電話すると「店長ですか? 帰っちゃいました」って。
ナオ:そういうこともある。
パリ:さっさと電話すればいいのに、それができない。
ナオ:それだけで1日の体力を使い果たすぐらい。
パリ:最初の通話ボタン押すまで、本気で2〜3日かかるとかザラですよね。それでよけいに自分の首を絞めちゃって。驚くのが、仕事のできる編集者さんとか、取材先候補の案が出た30分後くらいに「OKもらえました!」とかメール来たりして。もうそういう才能、いや、もはや“異能”なんですよね。
ナオ:そう! 経験値なんだろうか。
パリ:どれだけの修羅場を経験すればああなれるのか。あとさ、取材内容の説明も苦手でしょう。
ナオ:苦手苦手。
パリ:あらかじめ話すことを書き出して、プリントアウトしておいたりするもん。それでもしどろもどろになっちゃって。あ、あとあと! 「フリーライター」って名乗ると伝わらないこと多いから。「〇〇という雑誌の、あの、記者的なことをやらせてもらってる者なんですが……」みたいな。
ナオ:はは。やけに怪しい感じになってね。普通、お店にかかってくる電話って予約とか営業時間の問い合わせだもんね。あとはセールスか。
パリ:会社勤めしてたころ、やたらとセールスの電話かかってきてたもんなぁ。あれと変わんないんだよ。
ナオ:そうなんですよ。怪しさで言えば。
パリ:「御社の通信費が安くなるので、そのご連絡なのですが」とか言ってきて、そういう電話多いから「いえ、けっこうです」って切ろうとしても、なんやかんや要領を得ないことを言って話を続けようとする。あれ、うまいこと要点をはぐらかしつつ、丸めこんでなんらかの契約をさせようとしてるんですよね。ただ、こっちも要領の得なさなら負けてないから。
ナオ:はは。あと、「そちらのお店を取材します」って言って、お店からお金をとるみたいな業者もあるんでしょうかね。
パリ:確かに。「お金かかるの?」ってよく聞かれる。
ナオ:そうそう。広告費としてお金をとるっていう業者があるんでしょうね。それはそれで、お店側がいいならいいんだけど、こっちはそんなつもりがないから。
パリ:そこだけはやけにはっきり否定するんですよね。「いえ、私はそういう者じゃありませんのでご安心ください!」って。
ナオ:いや、そこだけ強調されても……。
いろんなトラウマ
ナオ:あと、好きなお店に取材をお願いするとき、ドキドキしませんか?
パリ:はいはい! 学生時代の、好きな子の家に電話するパターンですよ。
ナオ:そう! 好きなお店に断られたことあります! で、気まずくて行けなくなる。
パリ:わかるー。
ナオ:向こうは自分だってわかってないと思うんだけど、「あの優しそうな大将があんなふうに冷たく断ってくるんだな」っていう。
パリ:ははは。あとあれ、お店のWEBサイトがあって、「CONTACT」のページにメールフォームがあると、助かった! とばかりまずそこにメールするんだけど、返信が来るのは半分以下の確率。
ナオ:はは。取材あるある。
パリ:普通に予約の人とかも使うアドレスだったりするから。
ナオ:そうですね。返信するのも面倒だろうし。
パリ:あ、それで思い出したんですが、前にすごいことありましたよ。編集さんから取材してほしいと言われたお店が、大きめの飲食店グループ会社のなかのひとつだったんです。
ナオ:ほほう。
パリ:で、CONTACTからメールして、「お問い合わせを受け付けました」っていう確認メールがすぐに来た。なのに4、5日経っても返信がなくて、どうしても連絡をとる必要があったので、意を決してサイトに書いてあった番号に電話したんです。そしたら、ものすっげ〜〜〜横柄なおじさんが電話に出たんですよね。で、「そちらの系列の『〇〇』というお店に取材のご相談をさせていただきたく、電話したんですが」って言ったら、「突然そんな連絡をしてくるなんて失礼じゃないか!」みたいな、よくわからない怒りかたをされて。
ナオ:うおー。そんなこともあるのかー。
パリ:「あ、いや、じ、実はですね、数日前にいったんメールさせていただいて、その件で……」って説明するだけど、「うちにはメールでの問い合わせ窓口なんてないよ!」って。確認メールまできたのに!
ナオ:はは、窓口があったからメールしたのに。
パリ:そういうのに疎い、しかもちょうど虫の居所の悪いおじさんだったのかな。あれ、トラウマ。
ナオ:一度失敗すると、トラウマになるんですよねー! 心が削られる。あと、こういうバージョンもあったな。「取材? いいですよ!」ってなって、滞りなく終わって、それから1か月ぐらいしてそのお店にまた行ったら「おお、この前の取材の人か! あれからお客さん全然増えてへんねんけど!」って言われて。
パリ:はは。ある〜。申し訳ない〜。
ナオ:「あ、あ、あはは」と笑うしかない。
パリ:だからこそ、「記事見たけど、すごく良く紹介してくれてありがとうね〜」とか優しく言ってくれる店主さんとか、もう、涙出ちゃいますよね。
ナオ:本当です。稀なことです。
パリ:もちろんそれが狙いじゃないんだけど、お店のこともっと好きになっちゃう。
ナオ:優しくしてくれた店への恩は忘れないですね。
パリ:ね。渋谷に「みさわ」っていう、立ち食いそばと立ち飲みとコンビニが融合したような最高の店があるじゃないですか。
ナオ:神泉のほうにあるところですよね! いい店。
パリ:あそこのご主人がすごいいい人で、デイリーポータルZで紹介させてもらったら「お客さんがたくさんきてくれた!」って、すごく喜んでくれたんです。で、コロナで緊急事態宣言が続き、「あの店もこの店もどうしてるかな〜」なんて心配しつつ、なにもできないで家にこもってたころのこと。ご主人から急に電話かかってきて「さっきラジオ聞いてたら急にパリッコさんが出てたからさ、がんばってるな〜、最近どうしてるかな〜? って思って、電話しちゃったよ」って、こっちがそうしないといけないのに。もう、泣けましたよ。
ナオ:いい電話だな。取材交渉の電話の真逆にあるような。
パリ:本当だ。方向も逆だし、お願い事もひとつもないし。
ナオ:最高の電話です。
パリ:一生通いますよ。
カリスマ勧誘士
ナオ:電話ってそもそも、今なかなかする機会がないでしょう。受けるほうもかけるほうも緊張しますよね。
パリ:あれ、なんでなんすかね。あのさ、スマホの着信音が鳴るでしょう。そうするととりあえず、「怒られる!」って思いません?
ナオ:ははは。着信音の時点で身構えてしまう。なんかいきなり圧があるという。
パリ:圧があるよ。
ナオ:相手はそんなこと思ってないんだろうけど「出ろ! 出ろ! 出ろー!」に聞こえる。
パリ:はは。あの、マナーモードにしてテーブルに置いといたときの、「ブブー! ブブー!」って、なんであんなにでかい音するんだろ。
ナオ:音を消してるっつうのにね。
パリ:よけいこわい音になってる。
ナオ:獣がうなってるような音なんだよな。
パリ:そこに、最近取材した店の名前が出てたらもう終わりじゃないですか? 「うわー……なにかしらやらかしたな……」って
ナオ:嫌な予感しかしないもんなー。
パリ:そんなパターンで怒られたこと、ほとんどないのにね。
ナオ:はは。確かにそうですね。
パリ:たいてい「雑誌届いたよ! ありがとね〜」とか。どうにかしてつけられないでしょうかね? 電話力。
ナオ:今こそつけたい電話力!
パリ:そういう新書があったら買うよ。
ナオ:かなり昔のことなんですが、ヒマな学生時代に、ひとり暮らしの部屋に電話がかかってきて、主旨としては英語教材のセールスだったんですね。
パリ:ほう。
ナオ:相手は若い女性と思われる声。で、こっちは「いや、大丈夫です、英語は今はいいです」みたいにお断りの返事をしたんですが、「ああ、そうだよねー。教材とか言われても困るよね。ちょっと、関係ない話していい?」みたいに言ってきて。
パリ:はは、なんだ。漫画の導入みたいだ。
ナオ:向こうの最近の愚痴とか、「っていうかお兄さんは学生さん? こんな時間に部屋にいて、サボってるんでしょ〜(笑)」みたいなさ。で、すっかり友達気分になってしまったんですが、あれ、めちゃくちゃ上手なセールスの人だったんだなって、あとで思って。
パリ:はは。そうか、そういう手法!
ナオ:またあの人と話したいから、英語買おうかなとか思っちゃって。幸い、幸いというか、そんなお金はなかったんで無理だったんですけど。あれはテクニックだなと。
パリ:それで「じゃあね〜」って切られちゃうと、逆に気になりますもんね。すごいな〜。
ナオ:ああいうのって、電話でしか起こりえないことだったなと思い出しました。
パリ:確かにな。僕も急に思い出したんですが、高校時代、友達が家庭教師の勧誘のバイトをしてたんです。
ナオ:家庭教師じゃなく、その勧誘。
パリ:そういうのの派遣システムを請け負ってる会社みたいな感じかな。で、そいつはそういうのが得意なのか「同じこと言うだけだし楽だよ〜」と。で、紹介してもらって僕もやってみることになって、所沢のマンションの一室で、とにかく、学生がいる家の電話番号リストを見ながら、そこにかけまくるんです
ナオ:はは。そういう謎のリストがあるんだよなー。
パリ:当然「この番号、どこで調べたんですか?」とか怒られたりして、もう、すぐダメージ受けて嫌になって。それでも、週に数回、1ヶ月くらいはがんばって通ったんだっけな。そこにひとり、カリスマといわれる勧誘士の先輩がいて。
ナオ:カリスマ勧誘士ですか。
パリ:今思うと当時の僕よりちょっと上くらい。20代そこそこの、メガネをかけてセーターを着てる、ごく普通の男性なんですが、1日に何軒も何軒もアポをとりまくるんですよ。もう、ベタに成績グラフがぎゅーんって突き抜けてる。
ナオ:すごい敏腕なんだ。
パリ:アポがとれると、社員の人がその家まで説明に行くんですね。それである日、社員の人が、その約束をすっぽかされたと愚痴を言いながら事務所に帰ってきて。そのアポをとったのがカリスマさんだったんですけど、すぐにその家に電話をかけて、出た人に「どういうことなんですか? “お約束”という言葉の意味って知ってますか?」って、逆に詰めてて、とんでもないなと。
ナオ:すごい。電話モンスターだ。
パリ:人間、あそこまで強気になれるんだと。
ナオ:約束という言葉の意味、か……。知らないかもな。カリスマともなると、そんな域に達するんですね。いや、そう考えるとまぁ、この自分でよかったような気もしてくるという。
パリ:はは。本当ですね。モンスター化してしまうくらいなら。でもせめて、後ろめたいことのない取材交渉電話くらいは、自然にできるようになりたい。
ナオ:そうですね! やっぱり電話力の新書が欲しい。
パリ:『電話力 〜通話プッシュで開ける未来〜』
ナオ:ははは。その本、パリッコさんが書いてたらおもしろい。
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