012「奇跡だけど特に意味はない」

「おじさんたち、何部なんですか?」


パリ:こないだデイリーポータルZの取材で、千葉県の「妙典(みょうでん」)という街を訪れたんですよね。

ナオ:旧江戸川沿いにある「川の駅 あづま家」っていう、すごい良い売店というか川茶屋というか、そういう店を訪ねましたね。

パリ:いや〜、素晴らしかった。ところで、その前日くらいに目的地の地図を確認してたら、気づいたことがあったんです。

ナオ:ほう。

パリ:妙典の取材が2月9日。その5日前の2月4日に、趣味のエゴサーチでこんなツイートを見つけていたんですよね。

ナオ:これはもう、パリッコさんの絵に違いない。

パリ:そうそう。僕がよく書いているたぬきのイラストで。で、ツイートの写真の店が、江戸川区の篠崎にある「大林」という酒場なんですね。僕は行ったことがなかったんだけど、いい酒場だという記事をネットで読んだりしていて、行ってみたい店のひとつだったんです。

ナオ:自分の絵がこんな風に使われてたら嬉しいですもんね。しかも行きたいと思ってた店ならなおさらだ。

パリ:ね! で、これはもう近々行かねばと思ってたら、妙典から旧江戸川を渡って、歩いて行けるくらいの場所だということに気づいて。

ナオ:ちょうどいい! と。

パリ:はい。まぁ、偶然見かけたそれっぽい絵をたまたままねて描いただけで、僕のことなんか知らない可能性もぜんぜんあるわけですが、それはそれとして、縁だなと。そんで「取材の帰りに寄れたら寄りましょう!」と提案させてもらってて。取材が15時過ぎくらいには終わったので、行けそうだと。

ナオ:妙典は千葉県の市川市で、川向こうの篠崎は東京都の江戸川区になる。川沿いをのんびり歩いていきましたね。

パリ:意外と大回りしないと川は渡れなかったんですけどね。でも、散歩するのにちょうどいい天気すぎて、ずっと気持ちよかった。また、篠崎のあたりの雰囲気がすごくよかったですね。

ナオ:商店街が独特でしたよね。お店の看板の規格が統一されていて。同じ時期に一気に作られた街なのかな。

パリ:ね。歴史が知りたい。で、興味深くうろうろ散歩して、それでもまだ時間があったんで「竹の湯」って銭湯に寄ったり、小さな川辺の公園で、「もうそろそろ、書くことなんてないですよね」とか愚痴を言い合ったり。

ナオ:はは。そうそう「ライター、いつまでやってられるんでしょうね……」とか。

パリ:当の本人たちには悲壮感あるんだけど、はたから見るとどう考えてものんき。みんなその時間、がんばって仕事してるっつーの。

ナオ:またその場所が小学校の目の前で、きっとみんな部活とかしてる時間なんですよ。

パリ:はは。若人に聞かせたくない会話。

ナオ:「おじさんたち、何部なんですか?」って聞かれたらどうしましょうね。

パリ:「帰宅しないのになにもしない部だよ」

ナオ:はは。ぶらぶらしてるだけ。

パリ:帰宅部のほうがまだマシ。

ナオ:帰宅しようという意志があるだけ偉い。

パリ:「ボーット部」でもいいかもしれない。

ナオ:はは。うまい! うまさが切ない。



生活ハイ

パリ:とにかくそうこうしてたらやっと17時になり、こういう時期なんで、人の少ないオープンから小一時間飲むくらいの感じでいきましょうかとお店に向かったら、無事やってて。入り口に確かにあのイラストがあって感激しました。
ナオ:Twitterで見たのと同じでね。提灯にあかりが灯っていて、嬉しかったな。



ナオ:また、本当にいい店でした。
パリ:でしたね!
ナオ:だって飲み物のメニューに「野菜生活ハイ」があるんですよ。優しい。
パリ:はは。ナオさん向けの酒。「とりあえず野菜生活ハイで」っていう。
ナオ:野菜生活ハイって、ちゃんと商品名そのままなのが好き。「野菜ジュースハイ」でもいいのにね。
パリ:確かに。しかしメニュー名に「生活」が入ってる酒って、ここにしかないんじゃ?
ナオ:そう! 「生活ハイ」の部分が好きなんですよ。
パリ:何度か通ったらさ、「生活ハイ」で通じるか試してみてほしい。いやもう、カウンターに座って一言「生活」で。
ナオ:「生活いっちょうー」って。というか、“生活ハイ”っていう状態ありません? 一心不乱に皿洗ってるときとか、同時に3つの鍋で料理してるとか。
パリ:ある! 3つめのコンロに火をつけた瞬間の「おれ、仕事できる」感ね。つけただけなのに。
ナオ:そうそう! ターンテーブルだってたいてい2個でしょ。3個になると田中フミヤかジェフミルズよ。
パリ:超人や宇宙人の領域。あと、スーパーって意外と、卵売り場の場所がまちまちじゃないですか? けっこう見つけるのに苦労したりする。そこに、ばしっと辿り着けたときの快感。生活ハイ!
ナオ:はい! 生活ハイ! 各自が感じる「生活ハイ」を集めたいですね。
パリ:いいですね〜。
ナオ:それはさておき「大林」。
パリ:そうそう。僕はそんで「宝焼酎 酎ハイ(白)」っていうのにしたんだったかな。白と赤があって、よくわかってないけど。
ナオ:ね。そこもわくわくする。白と赤とは!? って。
パリ:たぶんなんか、エキスが加わるのかな? 赤は。
ナオ:隣のお客さんがお店の人に聞いてましたよね。焼酎に梅シロップがあらかじめ加えてあるっぽい。
パリ:そうそう。でまた、いいセットで来るんですよね。コップ焼酎、ジョッキ、ナオさんなら缶の野菜生活。僕なら瓶の炭酸。ジョッキにはレモンの輪切りが1枚。なんか、久々でしたああいう感じ。
ナオ:そのコップ1杯の焼酎がけっこうな量でね。野菜生活の缶って小さいから全然バランスが合わないっていうかさ。まともに割ったらいきなり撃沈なんですよ。
パリ:はは。見返すと、焼酎の方が多いんじゃないか?




ナオ:おつまみもすごく美味しかった。
パリ:お通しの大根煮からして、もうさ。
ナオ:いかと大根の煮物なんだけど、大根にいかの味がしっかり染みてる。
パリ:究極ですよね、あんなの。ただいかんせん、そこまで腹は減ってなくて。
ナオ:ですね。軽くでいいぐらいだった。
パリ:だから注文もすごい慎重に、まず1ターン目でひとり1品ずつみたいに様子を見つつ。ナオさんが「たら豆腐」いったんでしたっけ?
ナオ:そうです! あの「たら豆腐」がもう絶品で。今食べたくなってきた。
パリ:豆腐にたらの味を乗り移らせるとか、そういうことがうまいんだよな〜。僕が「かじきまぐろなめろう」。
ナオ:すべてがていねいなお味。なめろうも、「下味はついてますんで、醤油はお好みで」と言って出してくれる。
パリ:なのになんか「ねぎとろ」感覚で、毎回醤油つけちゃってから「あ、しまった」つって。最後までそうやって食っちゃってたかもしれない。
ナオ:はは。それがまた楽しい。「ああ、また醤油つけちゃったよー!」って、世界一どうでもいい失敗でしょう。
パリ:なんであれ、世界一ならね。




パリ:2ターンめはナオさんなんでしたっけ? なんか揚げ物だったような……。
ナオ:そうだ! ジャーン! 「トマトフライ」よ。
パリ:そうだそうだ!
ナオ:トマトをフライにしてあるの。トマトが果物ぐらい甘く感じられる。ソースとの相性が素晴らしい。
パリ:うんうん。また頼みたいですよあれは。で、僕が「いなりなっとう」。これは、もしかしておいなりさんの中身が納豆だったりしないかな? と淡い期待をしていたんですが、いわゆる、納豆を挟んだあぶらあげを焼いたような、オーソドックスなものでした。
ナオ:間違いなくうまいやつ。で、1杯ずつおかわりしたかな。
パリ:僕はそこで「赤」を頼んだんでした。ナカのおかわりで。それでもはや大満足。
ナオ:僕はもう、最初の焼酎が残ってたので、炭酸だけもらってそれでじゅうぶんでした。


本人たちの胸にだけ残るプレー

パリ:そうこうしてたら、女将さんらしき人? が、仕込みメインなのか、帰ろうとされてて、それで思いきって僕が追いかけて、イラストの真相を聞いてみたんですよね。そしたらまぁ「よくわらない」と。「あれは、大将に頼まれてお手伝いの娘が描いてるのよ」って。で、今度はその方に、タイミングを見て聞いてみました。恥ずかしながら。そしたらなんと、「どっかで見つけてまねして描いた」とのことでした。

ナオ:画像検索したと言ってたかな、とにかく何かで出てきて、それを見て描いてものだと。パリッコさんファンとかではなくね。

パリ:はは。あぶねー! 入店直後にいきなり「おれですよ!」とか言わなくてよかった。

ナオ:ははは。いや、でもそこもすごくない? 「酒場ライターのパリッコさんのイラストなので」とかじゃなく、純粋に「このたぬきかわいな」って思われたってことでしょう。

パリ:少なくとも、「嫌だな、この絵」とは思われてないはず。

ナオ:ピカソのサイン入ってない絵を「いいな」と思って買ったら実はピカソでした……っていうのは大げさですが。

パリ: 大げさです。いやでも、本当に嬉しかったですよ。純粋にまた行きたいお店だったし。

ナオ:ね! あのイラストがきっかけで行けたところもあるから、そう考えるとなんだかおもしろい。

パリ:それで「あ〜よかった。そろそろ帰りますか」と話してたら……。

ナオ:そうそう。ふたり組のお客さんがちょうど入ってきて、席が空いてなかったから「我々、ちょうど飲み終わったんで」と出て。お店の方がそろばんを使って会計してくれて、確かすごく安かったはず。

パリ:安かった。ふたりで3000円くらいだった。

ナオ:で、「お店の前で記念写真撮りましょう」って言ってたその時ですよ!

パリ:ね!

ナオ:お店の戸が開いて、なかから出てきた方が「パリッコさんとスズキナオさんですよね!?」と。

パリ:びっくりです。

ナオ:しかも「私、このパリッコさんのたぬきの写真をツイートした者です!」って。

パリ:我々がその日大林に行くきっかけになったツイートをしてくれた、まさにその人だったんですよね。いきなり行って会えるとは。

ナオ:はは。奇跡!

パリ:その奇跡が起きたからなんだということはないんだけどね。酒場の奇跡あるある。

ナオ:ははは。そうそう! 奇跡だけど特に意味はない。たとえるなら、草野球の試合で起きた神がかったプレーみたいな。本人たちの胸にだけ残るっていう。

パリ:けど、それが楽しくて草野球やってるようなもんだからこっちも。テンション上がってね。「ありがとうございます!」と。まぁ、そういうようなことがありましたね。

ナオ:たまにこういうプレーが出るからまた野球を続けたくなるっていう。いい1日でしたね!

パリ:そもそもあんなふうに飲んだのっていつ以来だろう。コロナがあって以来、商店街を歩いて、とかはあったけど、ふたりでじっくり街をふらついたり、渋い酒場に入ったりってのはもう、本当に2年以上ぶりだったかもですね。

ナオ:確かにな。飲んだのは本当に短い時間だったけど、初めてのお店で「どうします? どうします?」とかって、楽しかったなー。ありがたい時間でした。

パリ:そこで起こるなんでもない奇跡。あらためて、酒場は最高だと思いました。

ナオ:まったくです。

パリ:相変わらず、まだまだなにも気にせず飲み歩いたりできる状況ではないですが。

ナオ:落ち着いたら、ぜひまたふらっと行きましょう!

パリ:そうですね。きちんとお腹も空かせて「大林」にも行きつつ、その周りにも良さそうな店がありまくったから、篠崎飲みもリベンジしたい。

ナオ:またじっくり散策したいですねー。


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