011「大衆酒場でギャップ萌え」
同じ酒好きでも……
パリ:仕事がら、いろんな人と会うじゃないですか。
ナオ:会いますね。取材相手や編集の方とか。
パリ:ずいぶん前に、とあるラジオにゲスト出演させてもらうことになって、スタジオへ行ったんです。そしたら、ありがたいことに僕に興味を持ってブッキングしてくれた方とは違う、P? D? あまりよくわかってないんですが、そういう方が挨拶に来てくれたんですね。もちろん僕に対する予備知識は、「なんか酒が好きらしい」くらいで。
ナオ:うんうん。まぁそうだよな。向こうにしたら毎日いろいろなゲストが来るだろうし。
パリ:ね。もちろん、基本いい人で、「オレも飲むの好きなんすよ〜。ふだんどのへんで飲むんですか?」みたいに話しかけてくれて。嬉しくなって、こっちも「え〜とですね」なんて。
ナオ:話すことで緊張もほぐれそう。
パリ:だけど、いきなり地元のやばいスナックの話とかしてもあれなんで、「たとえば〇〇という街なら、あそことかこことか」って、手始めにちょっと有名な店の話から始めて。
ナオ:無難なところから相手の好みを探っていくというか。
パリ:そうやって話していてだんだん気づきだすんですけど、「その街だと〇〇って店が有名ですけど、あそこ、まずくないっすか? 高いし!」というようなことを言われて、「うっ……」と。
ナオ:あー! そういう判断基準の人なんだ。
パリ:そうそう。「あれ? 同じ酒好きでも、酒場に対する感覚は違う人かも」と。「〇〇って店も好きです」って言ったら、「へ〜、初耳です!」ってスマホで調べて「やばい! 食べログ3.9点じゃないですか!」みたいな。
ナオ:なるほど、評価目線というか。もちろんそういう人もいますよね。
パリ:っていうか、なんならそっちが多数派なんでしょうけどね。そういうときの対応って難しいですよね。しかも、そのまずいって言われた店、けっこう好きだったりして。
ナオ:ははは。それは悲しいですね。
パリ:なのに「あ〜……確かに、値段に対して量は少なめですかね……」とか、話合わせちゃって。
ナオ:うんうん。のっかってしまってね。「まぁ、この場が早く終わればいいや」っていう。
パリ:そうそう! そして罪悪感がちょっとだけ残る。
ナオ:裏切ってしまったような。
パリ:だからと言って「は? それは違いません?」とはなかなか言えない。初対面だし。
ナオ:しかもこれから収録だっていうのにね。気まずい空気になっても困る。
パリ:ブースの外からずっとにらみ続けられてもしゃべりづらいですからね。
ナオ:話してる途中なのにBGMを大きくしてきたり、変なタイミングで交通情報を挟んできたり。
パリ:事前に伝えてあったリクエストと違う曲をかけられたり。
ナオ:ははは。
パリ:嘉門達夫の替え歌メドレーが流れだして、「あれ? butajiさんの新曲をお願いしてたはずなんですけど……」っていう。
ナオ:その落差は大きい! そして「この曲を選んだ理由をどうぞ」と、外から紙で指示。
パリ:「え、えっと……もとの歌詞と似ているのにまったく違う意味になるのがおもしろくて……」。
ナオ:替え歌ってそういうものだもん。
パリ:顔真っ赤。
ナオ:汗タラーッ。
外食SM
パリ:でも本当、酒好きったっていろいろいるなと。それこそ、日本酒好きとワイン好きだってぜんぜん違うし。
ナオ:そうですね。なんかテレビ見てると、すごく凝った料理を出すレストランとかよく出てくる。そういうのが楽しみな人は、ごく普通のつまみしかない小さな酒場なんかは退屈なのかもしれないですね。
パリ:ラズ先生とか、酒の道を極めた人が言うじゃないですか「酒場のつまみは美味しすぎないほうがいい」って。でも、そういう人から言わせたら「は? なんで?」ですよね。
ナオ:だから、「お酒が好き」っていうのは、意味としては「食事が好き」ぐらい広いってことだよなー。
パリ:ね。その人にとって酒場が、日常か非日常かっていう部分も大きいのかもな。その日の疲れを癒しにぼーっとしに行くのと、期待して外食するのの違いというか。
ナオ:そうですね。美味しいものをドーンと豪勢に味わいたい人もいる。あと、これはひとくくりにしたら失礼かもしれないですが、私もパリッコさんもケチなのかもしれないと思うことがあります。どんな店であれ無理矢理にでも楽しみたいという。じゃないと損! みたいな。
パリ:ははは! それもありますね。
ナオ:転んでもタダでは起きない。なぜなら損だから。
パリ:「よーし、この店はハズレか! さて楽しもう!」
ナオ:はは。背筋ゾクゾク! みたいなね。「来たぞ来たぞー!」って。
パリ:変態ですよ。SMの世界。
ナオ:「うわ! 店主こっわ! しかも俺にだけ明らかに冷たい! 最高!」
パリ:注文がぜんぜん来なくてゾクゾク〜。けっきょく最後まで届かなかった料理のぶんまで支払って、上気した顔で「ふぅ〜」って。
ナオ:「ごちそうさまでーす!」
パリ:はは。食べてないのにね。
まずい水
ナオ:先日、大阪の鶴橋でラズウェル細木さんと食事をする機会がありまして。
パリ:あ、ラズ先生がシカクで個展されてましたもんね。
ナオ:そうそう。で、飲み始めた店にあとから、遅れてもうひとり来るっていう状況だったんですね。我々は先に入って待っていて。なのでメインの料理はその人が来てから注文すればいいかと思って、まずは軽いものを注文して飲んでいたんです。
パリ:あるある。
ナオ:しばらく経って全員揃って、「じゃあ」って感じでメイン料理を注文したら、それがラストオーダーギリギリというか、お店の人ももう厨房を片づけだしていたところだったみたいで。「え!? もっと早く言ってよ!」みたいなことを、3人いる店員さんが、入れ替わり立ち替わり言ってくるっていう。
パリ:はは。みんな怒ってくる。
ナオ:ひとりが言ってもうひとりがフォローとかじゃなくて、全員に叱られる。まあ完全にこっちの間が悪くて申し訳なかったんですが、「わー怒られたー」と。で、パッと見たらラズ先生が、なんか楽しそうなんです。叱られてるのに!
パリ:はは。マニアだ!
ナオ:そうそう!
パリ:ラズ先生のなんでも楽しむ力は、我々なんか足元にもおよばないですもんね。
ナオ:本当です。お店の人もけっきょくは「もうー」って言いつつ作ってくれるっていう。で、うまいの。
パリ:「もうー」からの絶品料理。ギャップ萌えですね。
ナオ:ギャップ萌え。そして会計も思ったより安い。萌えー!
パリ:はは。思えば大衆酒場って、ギャップ萌えの世界ですよね。「こんな小汚い店の料理がうまいわけ……うま!」「なんだかこわそうな大将だな〜……やさし!」って。
ナオ:もちろん、ギャップなしの、「すごくきれいな店だから料理もていねいで……うま!」でもいいんですけどね。自分のなかにどっちの対応パターンも持っておくと得ですよね。
パリ:確かに。それで言うと、「すごくきれいな店でていねいに料理してて……まず!」が究極かもしれない。想像しただけでゾクゾクする。
ナオ:はは。そっちもいい。しかし、「まず!」って感覚がそもそもわかってないんだよな。
パリ:まずいもの食べる機会なんて、年に1、2回あるかないかですよね。
ナオ:本当にそう。あ、でもこの前、ラーメン屋でめっちゃまずい「水」が出てきたことあった。私が飲めないんだからよっぽどだと思うんですが、でもラーメンはすごく美味しくて、「どういうこと!?」っていう。
パリ:ははは。水が! ギャップ萌えだ。「え? このまずい水を沸かしてこのうまいスープを?」
ナオ:錬金術。奇跡の技。
パリ:「フグの肝のぬか漬け」みたいなね。もとは毒なんだけど、あーだこーだすったもんだしてうまい珍味にしちゃうっていう。ただ、その毒をいったん客にストレートで飲ませるなって話ですが。
ナオ:はは。もしくは、「スープをうまく感じさせるためにあえてまずい水を……」っていう作戦だったのかも。あれ、なんだったんだろうなー。ラーメン食べ終わって「あーうまかった」って、リズムでまた水飲みそうになって、「あっ、まずい水だったの忘れてた!」って。
パリ:はは!
ナオ:口にちょっと含んだのをグラスにピュッと戻して「ごちそうさまでーす!」。
パリ:「あやうく美味しくない記憶が上書きされるところだった」って。変なラーメン屋!
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