007「1日2回来る客」

ダブルカオマンガイデー


パリ:昨日のことなんですけど、妻がちょっと体調を崩してしまって、大事をとって1日、家でおとなしくしてたんですね。それでお昼どき、「なにか今食べたい、元気の出そうなものはある?」って聞いたら「う〜ん、タイ料理……『カオマンガイ』が食べたいかも」って言うもんで、地元に好きなタイ料理屋がいくつかあるので、テイクアウトしてきてあげようと思って調べたら、軒並み定休日で。

ナオ:あらまぁ。どうしよう。

パリ:そこで、そういえば数年前に駅前に、大手資本っぽい、今風のアジアンキッチンみたいな店ができてたよな、と思い出して調べたら、そこで無事カオマンガイがテイクアウトできてたんですよ。

ナオ:おお、良かったです。弱ったときって「これ!」ていうドンピシャのものがどうしても食べたくなりますもんね。

パリ:ね。まぁちょっとドタバタしたけど、良かった良かったと。で、その日の夕方、僕は仕事で新宿に行かなきゃいけない用事がありまして、ついでに目的地の近くにある好きな店でごはんでも食べて帰ろうと思ったんです。そこが「モモタイ」っていう、早朝から夜まで通しで営業してて、しかも酒もしっかり飲めてしまうという、おもしろいタイ料理屋なんですけど。

ナオ:いいですね!

パリ:ところが、むちゃくちゃ久々に行ってみたら、なんと今、毎週その曜日だけ通常営業が14時までで終わりだそうで、スタッフの人たちが大量のお弁当を仕込んでる時間帯だったんですよ。

ナオ:おお、それは残念。

パリ:で、桃子さんっていう店主にちょっと挨拶だけして、「また来ますね!」って言ったら、これまでにWEB、雑誌、TVとかで、いろいろと紹介させてもらったりもしてる店なので「パリッコさん、せっかく来てくれたのに悪いから、これ持ってって!」って、お弁当をいただいてしまって。

ナオ:優しい人だ。

パリ:で、中身を見てみたら、カオマンガイで。

ナオ:ははは。

パリ:「なんで今日、急にこんなにカオマンガイ?」って。

ナオ:カオマンガイだらけの1日だったわけですね。あれ、カオマンガイってどういうのでしたっけ?

パリ:タイ料理の、鶏肉と一緒にご飯炊いたやつみたいな。

ナオ:チキンライスみたいなやつだ! あれ美味しいですね。

パリ:モモタイのカオマンガイがまた、超うまいんですよ! だから妻に持って帰ってあげたいけど、「でも今日、このタイミングで食べたいかな?」とか思って。けっきょくまぁ、妻は1日2食カオマンガイになってしまったけど、美味しく食べたという話なんですけど。

ナオ:はは。ダブルカオマンガイデーだったんですね。

パリ:カオマンガイマニアみたいなね。でも、これがカオマンガイだったからなんか変な1日だったけど、「あれ、今日3食うどんじゃね?」って日とかはたまにありますよね。

ナオ:そうですね。ラーメンばっかりの1日とか。

パリ:あ! っていうかナオさん、こないだデイリーポータルZの記事で、家から往復2時間かかる「宇宙」という町中華の全メニューを食べるって記事書いてて、最後の日、1日2回行ってましたよね!

ナオ:そうそう。昼と夜とね。いや、もう締め切りが迫りすぎて、どうしてもそこで食べないと全メニューが終わらなかったんですよ。それに加えて、最後は1日に2回行くのもいいかなって。

パリ:すごくほのぼのとした、読み終わったあとに心があったかくなるような記事でした。でも、「あれ? よく考えると異常行動じゃないか?」っていう。

ナオ:ははは。そうかもしれない。

パリ:昔『世にも奇妙な物語』で、玉置浩二が定食屋に入ってきて、メニューの端から端まで、食べては注文し食べては注文し、ついに全部食っちゃうんですよ。そんで、最初は引いてたお店の人と居合わせた客も「うおー! やりやがった!」って盛り上がるんだけど、何事もなかったように、また1品目を注文したところで終わる。そういう話があって。

ナオ:わー! こわい。

パリ:ちょっとそれ思い出しました。店の人からしたら、「毎日毎日、お昼によく来てくれるわねぇ。え? 夜もきた!?」って。

ナオ:たしかに1日に2回行くことによって、いきなり過剰さが出ますね。

パリ:同じ店に1日に2回、おもしろい。

ナオ:ただ、近所のコンビニなんかだとしょっちゅうでしょう? 私はだいたい昼と夜しか食べないんですが、昼、コンビニで買ったカップ麺、夜、コンビニで買ったカップ麺、とかありますもん。

パリ:はは!

ナオ:そういうときは私のような人間でも「これでいいのかな?」と少し思うっていうか。せめて2回目はカップ焼きそばにしたらよかったかなって。

パリ:いやいやもう、ちょっと根本から違う気がしますよ! 2回目はなんでもいいから別のものにしましょうよ。お弁当とサラダとかさ。

ナオ:はは。そうかー。でも「宇宙」はメニューもたくさんあって、1日に2回行くのも楽しかったですけど、コンビニだとちょっと怠惰な気持ちになりますね。

パリ:確かに。

ナオ:でもまぁ自分のせいか。同じもの2回食べてる自分が悪いわ。コンビニこそたくさんメニューあるもんな。

パリ:そうにもかかわらず僕も、最近気に入ってる「氷結無糖レモン」を、同じ店員さんから1日に2回買うこととかあって、こっちもこっちでこわい。

ナオ:ははは。わかるわかる。私は相変わらず近所の川で飲むのが好きで、いつもだいたい15時ぐらいに家を出て、いつものコンビニで買った缶チューハイを川で飲むんです。ほぼ毎日そこで同じものを買っていく。その時点ですでにループしてるんだけど、たまに川で興がのって「もう1缶!」というときもあって。そういうときは「さっき来たのにまた?」と思われてるかもしれない。

パリ:また来るかどうかの賭けが店員間で行われている可能性も。

ナオ:あるなー。よく、酒場の常連さんの「俺、週8で来てるから!」みたいなギャグありません?

パリ:はは! いるいる。

ナオ:ね。あれも、ギャグじゃなくて本当にそうなのかもしれない。

パリ:っていうか、酒場の2回は逆に効果的なことも多いんですよね。前に、デイリーポータルZの配信イベントに出るにあたり、当時編集部のあった二子玉川で「こんなおしゃれな街に古そうな酒場はないかな〜?」って興味本位で探して、運良く見つかった渋い店にひとりで入って軽く飲み、それからイベントに向かったんです。その後、編集長の林さんたちと「軽く飲んで帰りましょう」ってことになって、「さっきいい店あったんですよ! そこどうですか?」って。それで2回目行ったら、もう、特大おにぎりが人数分出てくる大サービス。

ナオ:へー、そんなことがあるのか! 俺も2回行ってみよう! ……っていう、意地悪じいさんの伏線。

パリ:はは。ラストシーンは馬糞片手に「お、おにぎりのはずだったんじゃが……」。

ナオ:自分で言っててそうなりそうな気がしました。でもまずひとりで来て、2回目は3~4人連れて来るって、すごくいいですね。

パリ:お店からしたらきっとね。

ナオ:美味しかった! いい店だった! っていうのがあったから仲間を連れてきたっていう。これが逆だとどうかな。まず3~4人で来て、あとでもう1回、ひとりで来る

パリ:あ〜、いや、今お店側の気持ちになってみたんですが、そいつもすごくかわいい。

ナオ:「じっくりここを味わいたかったんで!」っていう感じになりますかね。

パリ:うんうん。「2日続けて行く」っていうのは、酒場の達人の太田和彦さんなんかも推奨している手法なんですよね。「昨日来て気に入っちゃってさ〜」で、手っ取り早くお店になじめるみたいな。1日2回はさらに手っ取り早いのかもな。


来るときはいつも2回


ナオ:というか、我々も前にありましたね、1日2回パターン。

パリ:あった! 確か門前仲町の「凪◯(なぎまる)」という、お互い初めて入る立ち飲み屋でしたよね。あ、でも思い出してみるに、あれはちょっと小ずるい思い出ですよ。なんか、会員カード制度があると壁に書いてあって、それが「見せるだけで毎回ドリンクが50円引き」とかお得なカードで。

ナオ:そうだそうだ。よく覚えてますね。

パリ:で、それが、その場で申込書を書いて1週間以内にもう一度飲みに行くと会員になれるシステムだったんですよ。「1週間以内ということは、今日もう一度来たらもらえるんですか?」って店員さんに聞いたら、「え〜と、可能性はあります!」っていう。

ナオ:はは。そうだった。「可能性」ってなんだ。

パリ:たぶんそのとき店長いなくて、店員さんもそんなパターン初めてだからわかんなかったんでしょう。

ナオ:そうか、でもとにかく、お店の方もそんな酔狂をおもしろがってくれてた雰囲気でしたよね。

パリ:そうそう。楽しい雰囲気の店で。

ナオ:ちょうどさっきの話みたいに、最初はふたりでいって、その後にデイリーの林さん古賀さんと喫茶店で打ち合わせがあったので、そのままおふたりを連れて軽く行って、みたいな。

パリ:そうしたら、無事会員になれて、めでたしめでたしと。あれ楽しかった。ただ、せっかく会員になれたのに、その後行ってない。

ナオ:1日に2回も行ったのに。

パリ:極端。まぁ、ちょうどコロナ前くらいだったというのもありますが。

ナオ:そうですね。私はそれからなかなか東京に行けなくなって。また行きたいな。

パリ:ただ、もう会員カードどっか行っちゃったなぁ……。次回もまた2回行かないと。

ナオ:はは。来るときはいつも2回。

パリ:たま〜に1日2回来る客。

ナオ:そういえば、「宇宙」に2回行った日なんですが、夜は、チャーシューを食べたあと、チャーシュー麺を食べたんでした。2×2みたいな。

パリ:ははは! もう意味がわからない。「今日来るのが2回目の客が、チャーシュー2回頼んだ!」ですもんね。というか、2回行くの、あえて意識してやってみたいな。何軒かの店に2回行って、どうだったか。

ナオ:本当ですね! 私たちのいつものクセですが、レポート記事にしてもおもしろそう。2回目でようやくわかることって多そうです。映画とかもそうでしょう。

パリ:伏線の確認というか。2回目のお会計後に、店員さんにお話を聞けたら最高ですね。

ナオ:そうですね。時間で客層が違うなーとか、気づくことがいろいろありそうだ。

パリ:でも今想像してみたんですが、たとえば小さな定食屋の老夫婦に、2回目、「昼も来たんですけど、美味しくてまた来ちゃいました」って、完全なる嘘ではなくても言いにくいな。狙っちゃった以上、詐欺師の手口みたいな。

ナオ:そうですね、狙っての2回はなんか嫌か。「私、さっきも来ましたよ!」とかグイグイ来られても店の人にしたら余計なお世話というか。だからあれだな、ある程度大きな店がいいですかね。大箱の大衆酒場とかだったらお互い気にならないでしょう。もしくはマクドナルドかな。

パリ:はは! 何も起こらなそう。

ナオ:なんか、たまにオカルト系のサイトみたいなので、パラレルワールドに行く方法みたいなのありませんか? 「どこどこに何時に行ってそこでなにをしたら知らない世界に行ける」みたいな。まったくうろ覚えですが。

パリ:不思議話みたいなやつですよね。いっときハマってあれこれ読んだ。

ナオ:そうそう! そういうのっぽくないですか。「昼の12時と夜の19時にマクドナルドに行き、同じ席でダブルチーズバーガーを食べていると店員さんに声をかけられるから、それにこう答えて」。

パリ:もう、なにか声をかけられるまで毎日同じ時間に同じ場所で同じバーガーを食べて続けてみたい。

ナオ:はは。そうですね。というか、絶対そういう人いますよね。まず、朝だったらいるでしょ。必ず同じ場所でコーヒーを飲んで会社に行くっていう。

パリ:そうか。「習慣なのね」になっちゃうか。あ、でも、金曜だけコーラを飲むのは?

ナオ:いいでしょう! 暗号めいてくる。


年間ちくわ730本


ナオ:この前ひとりで、初めての角打ちに入ったんです。常連さんの多そうな店なのでドキドキしながら。そしたら、基本乾き物ばっかりの店なんですが、店に暗号っぽいのがいっぱい散りばめられてるっていうかさ。

パリ:ほほう。

ナオ:たとえば隣のお客さんが「サンカクちょうだい」って言ったら6Pチーズが出てきたり。

パリ:ははは。「チーズ」のほうが短いのに!

ナオ:ハイボールを頼んだら「缶で? それとも作ります?」って聞かれるとか。

パリ:うおー、わくわくする店。

ナオ:とにかく、そんなことは壁のメニューには書いてなくて、常連さんならわかる符牒というのかね。で、ある常連さんらしき人が店に入ってきたら、何も聞かずにマスターが、そそくさと冷蔵庫からちくわを1本取り出して、瓶ビールと一緒にその人の立った席に持っていったんです。

パリ:ちくわ!

ナオ:「なにこれ!」って思って。必ずちくわの人なんだなたぶん。

パリ:それ、どっきりなんじゃないですか?「こんな店、本当はありませんでした〜!」

ナオ:はは。そうかもしれない。

パリ:「どの時点から気づいてた?」っていう。

ナオ:「サンカク」で気づけたらよかったんだが。

パリ:はは。いや〜でも、ちくわか〜、そりゃあ毎日でも食べられないことはないけど。

ナオ:ああいうのっていつできあがるんでしょうね。「いつもの」的なやつ。

パリ:興味深いですよね。

ナオ:それこそ「瓶ビールと、あとちくわで!」っていう注文を1日に2回ずっとくり返し、さすがに10年くらいしたら何も言わずにちくわが出てくるようになるみたいな。

パリ:もう、ちくわと瓶ビール込みでその人みたいな。

ナオ:そうそう。

パリ:また悪いクセですが、どれだけ最短で「いつもの」が出てくるようになるかチャレンジとかやりたいですね。

ナオ:本当ですね。あれはもう、並大抵じゃないと思いますよ。

パリ:1年でいけないかな。いやでも、毎日2回通えばあるいは?

ナオ:1日2回を365日繰り返したとして……そうか、1日に2回行くとすれば1年は730日あるのか!

パリ:はは。こっちが参るわ。年間ちくわ730本。

ナオ:でも「いつもの」が決まってしまった人がいつもの気分じゃないときってどうするんでしょうね。

パリ:考えたこともなかった。

ナオ:もうちくわは何も聞かずに出してましたから。「いつものでいいですか?」っていう確認もなしに。

パリ:実はだいぶ前から「違うものも頼んでみたいな〜……」って思ってたりね。

ナオ:「ここ来るとちくわでほとんど腹いっぱいになっちまうんだよな……」

パリ:わはは!

ナオ:「よし、ちくわはこっそりポケットに入れよう……」って。

パリ:そうやってちくわを隠しても、まだ酒が残っているのを見た瞬間、店員さんがニューちくわをトンッ。

ナオ:こわいわー。歯医者の水の仕組みだ。


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