006「咄嗟力」
「ぬるうっす〜い」
パリ:突然ですがこないだ、「これ、どういう感情で受け止めたらいいんだろう?」っていう出来事がありまして。めちゃくちゃくだらないんですけども。
ナオ:ほほう、気になります。
パリ:何日か前、夏みたいに暑い日があったんです。
ナオ:最近までけっこう暑かったですよね
パリ:それで久しぶりに、キンキンに冷えた缶コーヒーが無性に飲みたくなって、自販機で買ったんですよ。110円だったから、510円入れて。
ナオ:おつりは400円。
パリ:ところが、取り出し口のところを見たら10円玉が見えて、変だなと思って数えてみたら、470円あったんです。
ナオ:70円も多い! 前の人が忘れていったケースですかね。
パリ:うん。でも、これを交番に届けるってのもほら、ぶっちゃけあれじゃないですか。財布なら届けるけど。
ナオ:そうですね。その額ならもうなんというか、「まわりもの」って感じもある。
パリ:はは。ね! だから、ありがたやと。コーヒーを40円で買えたと。今日はそのぶんなにか良い行いをしようってことで自分の中で処理したんです。で、ようやくコーヒーを取り出すわけですが、それが、手で持てないくらいアッツアツで! 間違えて「あったか〜い」を買ってるんですよ。
ナオ:ははは。キンキンを想定してたら。
パリ:今の気分と真逆のやつ。しかたないから冷たいコーヒー、また110円で買って。
ナオ:えー! そうか、まあ、そうなるか。
パリ:「得したの? 損したの? なんなの?」っていう。
ナオ:アッツアツだった缶コーヒーはどうなりましたか?
パリ:今、家の冷蔵庫で冷やしてます。でも缶コーヒーって「無性に今!」ってタイミングで飲むものじゃないです? だから、なんだかいつまでもあそこにありそうで。
ナオ:確かにね。買っておいて寝かせる感じではない。アッツアツにされて冷蔵庫で冷やされて、なかなか飲まれないっていう。
パリ:当のコーヒーも「どういう感情で受け止めたらいいんだろう?」ですよね。
ナオ:出会わなかったほうがよかったふたりみたいな。
パリ:そうそう!
ナオ:しかももう、すっかり寒いしな。
パリ:今日なんかすごい寒くて、むしろあっついコーヒーが飲みたくなってますよ。
ナオ:さすがにここでもう一度加熱したらコーヒーが怒りそう。
パリ:はは。すねちゃってね。味、薄〜くなって。
ナオ:「うっす~い」になるんだ。
パリ:すねちゃってるからどんなに温めても温度が上がりきらず、「ぬるうっす〜い」にね。
ナオ:現代の昔話。「すねたコーヒー」。「泣いた赤鬼」の要領でね。
パリ:はは。すねるなよ。
ナオ:もうこうなったら、どうか美味しく飲んであげてください。あ、前に、缶コーヒーに玉子を溶いたのを加えてレンジでチンしたら、簡単にコーヒープリンが作れるっていう話を聞いたことあります!
パリ:へー! やってみようかな……って、流れで、急にすごい角度からやってきたコーヒープリンを食べることになってる。
ナオ:ははは。当初の目的と全然違うゴールにね。
血迷い昼ごはん
ナオ:そういえばこの前、仕事で外出したあとにちょっと時間があいて、「そういえばお腹減ってたんだった」と思って、とはいえそこまでガッツリ食べたい感じではないから、駅前に立ち食いそばでもないかなと思ってウロウロしてたんです。ただ、そこが大阪の鶴橋っていう、焼肉屋さんがたくさんある街で。
パリ:楽しいエリアですよね。
ナオ:そう。それでふと、ランチ焼肉をやってる店が目について、咄嗟に入ってしまったんです。入ってしまったっていうか、結果的にはすごく美味しかった。だけど、ついさっきまではなんなら「かけそばでいいか」ぐらいだったのに。
パリ:だいぶ目的地変わってますね。
ナオ:「あれ? なんでいま肉焼いてて、しかも右手に生ビールのジョッキが!?」
パリ:わはは! なかなか食べないもんな〜、焼肉ランチ。数日前から気合れて行くやつですよ。本来。
ナオ:そうですよね。こんなはなずじゃなさすぎて、自分で驚いてしまって。
パリ:「なにこれ?」っていう。でも、外で昼ごはん食べようとして血迷うこと、ありますよね。
ナオ:ありますね。
パリ:会社員時代なんか月に一度くらいあった。ふだんあまり興味ないのに、なぜかこってりラーメンに無料の小ライスもつけてて、我に返って「なにこれ?」。
ナオ:わかるわー。自分が自分にびっくりしてる。だけどある意味、咄嗟に決めたものっておもしろいですよね。思いもよらないことになって。
パリ:それで言うと、ふらっと入った初めての酒場で「何にしましょう?」って聞かれるのなんか、モロですよね。急に緊張しちゃって。
ナオ:うん。そういうとき、私はいちばん無難なものを選んでしまう向きがある。パリッコさんはけっこう「咄嗟系」じゃないですか?
パリ:咄嗟を楽しんでるところはあるかも。
ナオ:「えーと、じゃあ山芋のピザ風で」みたいな、いきなりいくほうでしょう。
パリ:はは。いくいく。なるべく見たことないメニュー。
ナオ:そういう場面、実際に見たことありますよ。あれは咄嗟力ですね。
パリ:そうだったのか〜。けどいくら咄嗟力を磨いても、初めての店って最後まで「え? こんなのもあったの?」の連続だから、けっきょくなにかしら後悔は残りますよね。
ナオ:確かにね。実はお新香が自家製でめちゃうまいことだってあるものな。
パリ:そうそう。何度か通ったり、もしくは常連さんとちょっと会話させてもらったりすると見えてきたり。
ナオ:隣で食べてる人がいてやっと知るメニューがあったり。
パリ:発見するには何度も通わないとですよね。
ナオ:そうですね。でもさ、そうなると咄嗟力は失われますから。
パリ:うん! つまり、初回の店はその失敗も込みで楽しいわけだ。「あの小説、ストーリー忘れてもう1回読みなおしたいわ〜」っていう人いるじゃないですか? あの醍醐味というか。
ナオ:ああ、ありますね。「結末を知らないで今から初めて読めるのがうらやましい」みたいな。
ナオ:幸い、店はいくらでもあるから、ちょっと今度、思いっきり咄嗟でいってみたいです。
パリ:「咄嗟ツアー」やりたいですね!
ナオ:ね。どこまで自分の咄嗟力に委ねられるかっていう。
パリ:馴染みのない駅で降りて、「じゃあまずナオさん、3分で店決めて!」。
ナオ:ははは。焦るなー。
パリ:「次は15秒で1杯目と1品目決めて!」
ナオ:そんなにも追い詰められるんだ。選んだものに性格が出そう。
パリ:「咄嗟占い」ね。
味の円の問題
パリ:たとえばさっきの「咄嗟飲み」をふたりで交互にやったとして、やっぱり、咄嗟力見せたいですよね。
ナオ:見せたいですよ。そもそも「咄嗟飲み」じゃなくてふだんの飲み会でも、たとえば3人で飲んでいて「ひとり1品ずつおつまみを頼んでいこう」みたいな空気になるときってあるじゃないですか。
パリ:はいはい。
ナオ:自分が注文したいものっていうんじゃなくて、なんとなく全体のバランスをとり合わないといけない。いけないっていうか、そうしたい。
パリ:うんうん。それでいて、「お、こいつやるな」とも思ってもらいたい。
ナオ:で、Aさんが「にら玉」で、Bさんが「刺し身盛り合わせ」とかだとしたら、バランスをとりたい自分は咄嗟に「しらすおろしで!」って言ってしまう。
パリ:はは。実際そのパターンよくありますよね。先に決めちゃうのって、ちょっとずるいんだな。
ナオ:でもそうか、先に決めればいいんだ。
パリ:今急に反省の念が湧いてきましたが、僕がやっぱ「刺し盛り」とか食べたがるから、ナオさんが「おひたし」みたいな。
ナオ:なりがちかも。まあ好きなんですよ、おひたしが。
パリ:でも、ナオさんのその画竜点睛というか、カチッと最後にはめてくれる力はかなりのものだと思います。
ナオ:いやいや。無難も無難で。ちょっとこう、たまには大立ち回りをしてみたい。
パリ:こんど意識して逆順でやってみましょう。僕が最後まで様子を見る。でもそれこそ、ナオさんが山芋ピザをいきなり頼んだとして、サポート方面苦手だから、なにを頼めばいいのかわからなそうだな〜。
ナオ:はは。「じゃあ、それとグラタンで!」みたいなね。
パリ:だいぶ円がかぶってる2品。なんだったらハマるだろう。「きんぴらごぼう」も違うよな〜なんか。
ナオ:そもそも、その「味の円」を離せばいいのかどうかもよくわかりませんよね。だってこれがもしひとりの夕飯だったら、わけわかんなくないですか? 麻婆豆腐とピザがあって、そこにしらすおろし、みたいなさ。
パリ:「なにこれ?」
ナオ:「なにこれ定食」ですよ。
パリ:そう考えると、家のメシと居酒屋ってだいぶ違いますね〜。思考体系からして違う。
ナオ:本当ですね。居酒屋で食べてる時点ですでに、だいぶ咄嗟なものになってるわけですね。
パリ:考えてみれば、入ってみるまで何があるかわからない店に入るって、すごい行為だよな。
ナオ:まさに。お通しまで出てきますからね。お通しなんて咄嗟ですらない。こっちの判断の余地なしですもん。
パリ:問答無用に「鶏レバーのソース煮」を食わされる。
ナオ:それを食べた上で「さあ一品目どうする!?」って決断を迫られる。
パリ:すでに円の問題が発生してるんだ。
ナオ:その翻弄され具合を楽しみに行くようなところがある。
パリ:そりゃあ楽しいよな〜。翻弄されていきたいですね今後も。
ナオ:そうですね。居酒屋で思いがけないもの飲んだり食べて。
パリ:なんだか、ちょっと勇気も出てきました。咄嗟にベストを選択できなくても、それも楽しめばいいんだなと。後悔するんじゃなく。
ナオ:うん。そもそも正解があるわけじゃないですもんね。
パリ:うおー、めちゃくちゃ飲みに行きたくなってきた! きょうはあとで、ひとり「咄嗟飲み」してこよう。
ナオ:それしかない! そしてそれぞれの咄嗟ぶりを報告しあいましょう。
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